Category Archives: 未分類

諫言褒美「雲井の梅」

藩主黒田斉清侯は幼少の頃から忠臣井手勘七の硬教育に鍛えられ藩の学者亀井南冥など数人より和漢並びに蘭学を修め、「本草啓蒙補遺」一巻を稿し、別に菊花の絵巻十巻、牡丹の絵巻物数巻を編纂した。就中菊花をこの上もなく愛し、天下の名品を庭園に集めて自ら一かどの研究もし、客を招いては楽しんだ。ある日、今を盛りと咲き乱れる菊園の中に園丁某の飼犬が乱入して幾本かの枝を折ってしまった。
侯は烈火の如く怒って、園丁を手打にすると言い渡した。
これを聞いた仙厓さんは早速夜半庭園を訪ねて、研ぎすました鎌を手に藩主が大切にしていた菊の花を残りなく刈り取ってしまった。
翌日様子を見に御殿を訪ねると大騒ぎである。藩侯の眼は血ばしっている。刀の柄を握った藩主の前に園丁の生命は風前の燈である。和尚は藩侯の前に進んで威儀をたゞし、「お殿様この菊を刈り取ったものは、私、仙厓奴でございます。さあお手打を蒙りましょう。」
「だが一言、人の命と菊の命とどちらが大事でしょうか。しかも藩内は大飢饉で百姓は困っています。これに救いの手ものべず花いじりや、菊見の宴でもありますまい。民百姓あってのお殿様であることをとくとお考え下さいませ。」もとより英明な藩主は、「和尚やりおったわい!」と素直にに自分の非を認めて、「和尚にしてこそ」と感謝し、そのお礼にと藩主が愛していた雲井の梅を賜った。この梅は今も幻住庵の玄関にあって毎春元気のよい若枝を出している。